荒々しい山肌をみせる有笠山をのぞむ山腹に、かつて自給自足の生活を理想とした老後の理想郷がある。この旧老人健康村美ら寿は、食事棟、個室棟、入浴室棟が全長46m、高低差12mにもおよぶ長い階段で結ばれているという極めて特殊なプランをもった建物である。平均標高670mの緩やかな斜面に屋外階段と並行してゆったりとレイアウトされた階段は、まるで地球の一部を室内化して散策しているかのようなスケールの大きさを感じる。
この階段でアートインスタレーションをするにあたり、階段を登りながら空気の層を通り抜けていくような感覚を視覚化できないかと考えた。階段1段ごとに異なる色の糸を張り、階段を延長させた糸によるレイヤーを蹴上12.5cmごとに24段分作った。壁から階段の踏面に向けて張り巡らせた糸は放射状に広がり、しだいに糸の存在が消失する。24色の視覚化された空気の層ができ、階段を1段登るたびに別の層に移動する。1歩1歩、かすかに目の前に広がる景色が変わっていき、まるで朝もやの霧の中を通り抜けていくような体験がうまれた。

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アートインスタレーション/群馬県吾妻郡中之条町

use : installation art
building site : Gunma
material : threads
photo : Ryoma Suzuki

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